belong to me
2010-03-09
何分できみの町まで行けるかをどこへ行っても調べてしまう
あたたかな胸板の上で通話する傷んだ髪を撫でられながら
「何時?」ってわたしの手首ごとつかむ天才的に無防備な距離
シャガールの絵画のようにふりむいて変な角度で口づけられる
炎症のように残った気持ちだけ浮上してくる夜をゆるして
湯たんぽを抱えて潜る深い闇 いつか羊水から羊水へ
これからもアイスの溶けない距離にいて 甘噛みされた耳に疼痛
欲情のスイッチ切り替えるように京浜東北線に乗り継ぐ
「かばん」2010年3月号
親愛なる世界へ
2010-02-10
腕時計忘れたことをすぐ忘れ左手首をつるりと撫でる
コンビニのむき甘栗を買い占めて歩けば頬をなぶるビル風
耳鳴りは失意のしるし 愛すべき世界はよそよそしく裏返る
保護樹林だと思ってたわたしこそあなたに吹きつける砂嵐
逢いにゆくことを禁じた両脚を千鳥格子のタイツに包む
やわらかな弦張り替えて親愛なる世界のための第二楽章
コンビニのむき甘栗を誰よりも優雅に食べる(誰も見てない)
甘栗が乾いた喉にひっかかり咳きこみながらようやく泣いた
「かばん」2010年2月号
真昼
2010-01-15
思惑が横たわる部屋ひっそりと無為に疲れた閑人たちの
美しく歪めた口で紡がれる言葉にしんと打たれて真昼
「かばん」2010年1月号
イギリス海岸で抱きしめて
2009-12-13
花嫁を写さんとして付き人の極上の笑みばかり捉えり
秋深し秋のパン食い競争のパンの衛生を考える会
トピックを内輪話で消費するコミュニティからこっそり抜ける
麦チョコを買うためだけにこの列に並んでたのね夜のマルエツ
試し書きしてと言ったらああああ、と書いた右手を少し恨んだ
美しき鼻梁で溶ける雪のこと思って陶然とした冬の日
白亜紀へ駆けてゆけそう早春のイギリス海岸で抱きしめて
竿先に魚信微かにあるように予感はいつも揺らめきながら
「かばん」2009年12月号
ガーゼ
2009-11-15
簡単にhackできるわパスワード全部わたしの名前にしてね
天球の星より多いかもしれぬクリーニング屋のホチキスの芯
hack me,please.甘い毒薬を含ませあってけらけら笑う
サージカルマスク顎まで引き下げて受付に立つ 相手もマスク
悔しいよ無粋なガーゼが美しいあなたの顎を覆う日が来る
なんでなんで外出禁止なのなんでこんなに元気なのにばかみたい
もしかしてみんな楽しんでるのかと思うよ顔半分白くして
おそろいのガーゼマスクでデートする恋人たちの感染列島
「かばん」2009年11月号
IN MY ROOM
2009-10-17
たっぷりと毛足の長いバスマットいつも右足から着地する
幻覚は見る方だけどパイル地の寝間着に通す腕のたしかさ
すべらかな合皮のソファに沈みこむ凪ぐことのない海を抱えて
バーゲンでも何でもないのに履きもせぬルームシューズを一揃い買う
友達の元恋人の従兄弟から譲り受けたスツールの光沢
7382歩で止まってる歩数計をリセットできない
とらわれていたのはわたしパスワード変更をする指が震えて
磨きあげたタイルに薄いラグを敷きころりと寝てみる 夏が寄り添う
好きなひと大事なものが増えすぎて飽和状態 部屋も心も
かきむしる髪から香るメンソール低血圧と言われ続けて
文【ふみ】ひとつ書かないままに8月が夢見るように終わってしまう
天啓が乱れた髪に降り注ぎ住み慣れた部屋で立ちくらむ朝
「かばん」2009年10月号(特別作品)
文を待つ
2009-09-13
東雲の郵便受けに突き刺さる朝刊の音に身体を離す
郵便夫たちにも夜があることを思わぬだろうあなたの日々は
この指が書き分けられる文字たちを知らない恋は全てかりそめ
半身を雨に濡らしてしっとりと持ち重りする「市報さいたま」
死ぬまでに捨てねばならぬ一束の文を持つのだろうか誰しも
食卓に文をかさりと開くとき空を旅した庭がこぼれる
誰からということもなく文を待つピザでも回覧板でもなくて
※文=ふみ
「かばん」2009年9月号