常夜灯
2009-06-08
常夜灯つけて寝るひと完全な暗闇のやさしさを知らずに
寝室を分けろと諭す電話あり刮目せよ屋根の下のガイアよ
豆電球買いにゆくとき ふじょうり、と呟いてみる 猫が見ている
鉄を編むくらい無理だといなされて豆乳を飲む 少し酸っぱい
常夜灯つけたままでは眠れない 伏臥して聴く古い音楽
フィラメント切れるみたいにふっつりと必定きみを失うだろう
分け合えぬ闇があるからこの先も幾度も幾度も来る揺り返し
ビアグラスふたつ並んで背の低い右側だけが満たされている
「かばん」2009年6月号

キムチ
2009-05-08
受験票破り捨てたらその足でミックスパーマかけに走るの
それはまたアンビエントな新曲で春のテレビに致死量の萌え
市へ行く 自分の作る大根と新玉葱のサラダのファンだ
ゲシュタルト崩壊起こる柔らかいてのひら きみを数えきれない
悲しみの単位を考案する会に遅刻してまた悲しくなって
あの人にロックじゃないと笑われたミニ冷蔵庫に冷えてくキムチ
指先の熱さが恐い 隕石のかけらを拾った少女のように
新しいベビードールでしゃっくりも止めずに眠る夜のシュビドゥバ
「かばん」2009年5月号

冷凍睡眠
2009-04-10
円卓を指一本で止めてみる いつも必ず木耳が来る
御茶ノ水白いイヤホン突っこんで数歩歩けばdisc union
冷凍睡眠から目覚めてセルラーの最後の客になり損ねたり
独身寮目指して走る真夜中のピザーラのバイクたちの誠実
love-peace-happy@というメールアドレスを教えられて冷める
雲海の上に天気はないようにあなたは怒らないと思ってた
第二子も男児だという夢を今朝見しこと姉に告げざるべきか
あわよくばつなぎたかった左手で夜をちぎれば詩とは哲学
「かばん」2009年4月号

レビューをきみに
2009-03-10
貼るカイロどこに貼るのと問うきみは野生の駱駝の目つき 執着
レジ員も客もマスクのスーパーはさみしがりやの仮面舞踏会【マスカレード】だ
やるせない義務として負う防寒と美の両立も冬のつれづれ
貼るカイロに嫉妬している恋人をするりとかわし納税に行く
腰骨の温まりゆく束の間をベタな美談を聞かされながら
わたしより痩せないでねと念を押す忘れられなくなりそうな腕
貼るカイロ・貼らないカイロ 二種類の正しい冬のレビューをきみに
「かばん」2009年3月号

錦心繍口
2009-01-21
スツールをかつんと降りて医者を目指す男のDJネームを訊きぬ
願ふとは熱きマグマを飲むごとし喉焼くまでの錦心繍口
「かばん」2009年1月号

野鳥保護区で待ってる
2008-12-11
永遠に変わらなそうな信号にひたすら伸ばすレギンスの皺
わたしたち裸子植物ね初めから持たざる者の密かな愉悦
乗るときにやたら車体を触る癖やめてくれよと言われてやめる
あたらしいうつくしいひとあのひとにすでに香りをうつしてるひと
間に合うわ湯舟の底のペディキュアのピンクのラメを擦り落とせば
香水をどぼどぼ捨てる順接の接続詞より誠実に我
言い訳は信じてあげるでも今夜野鳥保護区の池で待ってる
振り向けば木立は深く烏龍茶色の鳥たちわっと飛び立つ
「かばん」2008年12月号

放課後の被服室
2008-11-07
雨が降る前の大地が匂い立つ甘い湿り気吸って二学期
放課後の被服室から手を振ったいつか振られる側になりたい
健全なモチーフとして美術部に走る姿を描き取られる
購買のチキンサンドを買い占めて職員室に貢ぎに行こう
新しい譜面 インクの香り すき ピアノ担当でも合唱部
埃舞う体育倉庫の小窓からレビューできない虹が見えるよ
友達に借りたジャージの袖からはわかってたけどあのこの匂い
ENTERキー死ぬほど押して得るよりも失うほうが得意なぼくら
「かばん」2008年11月号
