PROFILE

柴田瞳

歌人集団「かばん」に所属しています。ここでは短歌作品をはじめ、詩や歌人活動の記録を載せてゆきます。日記「マヨネーズ革命」も宜しくお願いします。

歌集『月は燃え出しそうなオレンジ』(2004年・ながらみ書房)

※批評・観賞目的での引用以外の作品の無断転用を禁じます。

MY CHARACTER

まめちゃん インド編

belong to me

2010-03-09

何分できみの町まで行けるかをどこへ行っても調べてしまう

あたたかな胸板の上で通話する傷んだ髪を撫でられながら

「何時?」ってわたしの手首ごとつかむ天才的に無防備な距離

シャガールの絵画のようにふりむいて変な角度で口づけられる

炎症のように残った気持ちだけ浮上してくる夜をゆるして

湯たんぽを抱えて潜る深い闇 いつか羊水から羊水へ

これからもアイスの溶けない距離にいて 甘噛みされた耳に疼痛

欲情のスイッチ切り替えるように京浜東北線に乗り継ぐ


「かばん」2010年3月号

親愛なる世界へ

2010-02-10

腕時計忘れたことをすぐ忘れ左手首をつるりと撫でる

コンビニのむき甘栗を買い占めて歩けば頬をなぶるビル風

耳鳴りは失意のしるし 愛すべき世界はよそよそしく裏返る

保護樹林だと思ってたわたしこそあなたに吹きつける砂嵐

逢いにゆくことを禁じた両脚を千鳥格子のタイツに包む

やわらかな弦張り替えて親愛なる世界のための第二楽章

コンビニのむき甘栗を誰よりも優雅に食べる(誰も見てない)

甘栗が乾いた喉にひっかかり咳きこみながらようやく泣いた


「かばん」2010年2月号

真昼

2010-01-15

思惑が横たわる部屋ひっそりと無為に疲れた閑人たちの

美しく歪めた口で紡がれる言葉にしんと打たれて真昼


「かばん」2010年1月号

イギリス海岸で抱きしめて

2009-12-13

花嫁を写さんとして付き人の極上の笑みばかり捉えり

秋深し秋のパン食い競争のパンの衛生を考える会

トピックを内輪話で消費するコミュニティからこっそり抜ける

麦チョコを買うためだけにこの列に並んでたのね夜のマルエツ

試し書きしてと言ったらああああ、と書いた右手を少し恨んだ

美しき鼻梁で溶ける雪のこと思って陶然とした冬の日

白亜紀へ駆けてゆけそう早春のイギリス海岸で抱きしめて

竿先に魚信微かにあるように予感はいつも揺らめきながら


「かばん」2009年12月号

ガーゼ

2009-11-15

簡単にhackできるわパスワード全部わたしの名前にしてね

天球の星より多いかもしれぬクリーニング屋のホチキスの芯

hack me,please.甘い毒薬を含ませあってけらけら笑う

サージカルマスク顎まで引き下げて受付に立つ 相手もマスク

悔しいよ無粋なガーゼが美しいあなたの顎を覆う日が来る

なんでなんで外出禁止なのなんでこんなに元気なのにばかみたい

もしかしてみんな楽しんでるのかと思うよ顔半分白くして

おそろいのガーゼマスクでデートする恋人たちの感染列島


「かばん」2009年11月号

IN MY ROOM

2009-10-17

たっぷりと毛足の長いバスマットいつも右足から着地する

幻覚は見る方だけどパイル地の寝間着に通す腕のたしかさ

すべらかな合皮のソファに沈みこむ凪ぐことのない海を抱えて

バーゲンでも何でもないのに履きもせぬルームシューズを一揃い買う

友達の元恋人の従兄弟から譲り受けたスツールの光沢

7382歩で止まってる歩数計をリセットできない

とらわれていたのはわたしパスワード変更をする指が震えて

磨きあげたタイルに薄いラグを敷きころりと寝てみる 夏が寄り添う

好きなひと大事なものが増えすぎて飽和状態 部屋も心も

かきむしる髪から香るメンソール低血圧と言われ続けて

文【ふみ】ひとつ書かないままに8月が夢見るように終わってしまう

天啓が乱れた髪に降り注ぎ住み慣れた部屋で立ちくらむ朝


「かばん」2009年10月号(特別作品)

文を待つ

2009-09-13

東雲の郵便受けに突き刺さる朝刊の音に身体を離す

郵便夫たちにも夜があることを思わぬだろうあなたの日々は

この指が書き分けられる文字たちを知らない恋は全てかりそめ

半身を雨に濡らしてしっとりと持ち重りする「市報さいたま」

死ぬまでに捨てねばならぬ一束の文を持つのだろうか誰しも

食卓に文をかさりと開くとき空を旅した庭がこぼれる

誰からということもなく文を待つピザでも回覧板でもなくて


※文=ふみ


「かばん」2009年9月号